日本国債の価格が崩壊するシナリオ
「日本は長期的に低成長、さらにはゼロ成長で衰退していくジリ貧過程にあると誰もが考えているから、利回りが1.5%未満の国債に対する需給が均衡しています。まさに『死に至る均衡』です。アタックされて均衡が破れたら国債は暴落するでしょう」

「死に至る均衡」に沿って膨大な国債が累積した結果、日本の金融システムは深刻な「金利リスク」―金利が上昇することで国債価格が下落し、国債を保有している金融機関に損失が発生するリスクに直面している。日本銀行「金融システムレポート」2010年9月号によると、大手銀行が金利リスクを回避するために長期国債を処分し短期国債にシフトしたのに対して、地域銀行(地銀・信金)は長期国債を一段と買い増している。各種金利が一律に1%上昇すると、都市銀行に約2兆円、地域銀行に約15兆円、年金に約2兆円、生命保険に約7兆円、つまり金融機関全体に約こ15兆円の損失が発生すると試算されている。
国債の日銀直接引き受け、あるいは、復興需要による景気V字回復によって、日本の金融システムが抱えている金利リスクが一気に顕在化する可能性は、決して小さくない。日本国債が危機に瀕したら、IMFは救援してくれるのだろうか。吉國氏は、こう指摘する。
「世界一の対外ネット資産を保有し、IMFの二番目の出資国で、1000億ドルの資金援助まで申し出ている日本が、IMFから資金援助を受けるという事態は想定し難い。逆に言えばIMFに頼らないで済むことが、必要な調整を遅らせ、死に至る均衡をもたらしてきたのです」
日本経済を成長軌道に戻して死に至る均衡」から抜け出す道はあるのだろうか。「成長するアジア経済との一体化が必須ですが戦略がありません。鳩山前総理はアジア共通通貨を提唱しましたが、日本も中国も欧州共通通貨ユーロヘの加盟条件である『GDPに対し財政赤字が3%以内、政府債務残高が60%以内』という基準を満たしていません」
国際経験が豊富なある日本人は、こう語る。「IMFは特定の一国ではなく世界全体の安定を優先します。豊富な外貨準備と対外純資産とを持つ日本の国債危機をIMFが救援しなければならない理由を探すのが困難です」日本国債は破綻なしに収束できるのだろうか。
「膨大に累積した国債が危機なしに収束することはありえません。一刻も早く取り組む必要があります。それでも危機は不可避です。それなら危機は早く起きる方がよいと考えます」暴論ではなく同氏は冷静に語る。「日本人が自分自身そして自分の子供の将来を真剣に考えて、金融資産を国内銀行への預金から海外にスクイズした途端に、日本国債は危機に瀕します。日本人が目覚めた結果として危機が起きるのなら、危機は早く起きた方がよいのです」
危機が起きたら日本経済は再起不能になるのだろうか。「国債暴落は、日本政府への死亡宣告ですが、同時に、日本経済の復活富一呂になりえます。過去のしがらみを断ち切り、ゼロから再出発できるからです」悲観と表裏一体の楽観は、どうすれば実現可能なのだろうか。
「日本国債の危機を日本経済復活の好機にするには、事前のシミュレーションが必要です。さらに、危機感の共有、リーダーシップを持つ政治家、実務能力を持つ人物が要職に就いているという三条件がそろわなければなりません。これがフィリピン危機の教訓です。その上で小泉政権での竹中平蔵氏のような『悪役』が必要です」
日本人の資産を国債暴落から守ることはできるのだろうか。「成長性のある国への投資が必要です。『海外投資は円高で為替差損が起きる』と言われますが、外為特別会計の運用実績を見ると長期では為替差益が差損を上回っています。人口減と低成長とで今後は円安の時代だとしたら、海外投資は必須です」
ニューヨークで格付け会社のムーディーズ、そして投資銀行のリーマンーブラザーズやギター・ピーボディに勤務し、現在は投資コンサルティング会社SAIL社長で、『ウォール街のマネー・エリートたち』ヘッジファンドを動かす人びと』(日本経済新聞社)の著者である大井幸子氏は、こう指摘する。
「成長性のある国々の証券に、米ドル建てではなく、現地通貨建てで投資しないと、日本の政府も個人も資産を守れないでしょう。しかし日本の金融機関はそうしたニーズに応えていません。官僚が国の資産を海外で運用すれば、無責
任な放漫運用で破綻してしまうのは、過去の財政投融資の経験からも明らかです。金融のプロを使わなければなりませんが、日本の組織原理がそれを阻んでいます。」
日本の金融監督機関や外資系の巨大金融機関で要職を歴任し日本最大の金融商品やFXである日本国債を見つめてきた専門家はこう語る。「危機を回避するには、増税か社会保障削減かインフレかのどれかしかありません。増税すれば有能な若い人が日本から出ていってしまいます。年金生活者にとってどれも同じ結果ですが、インフレが一番怖い。インフレーターゲットを設けて人為的にインフレを起こして債務を軽減することが提案されますが、インフレは起きてしまえば制御不可能です」
破綻を意図的に起こして傷をできるだけ浅くすることは可能なのだろうか。「破綻シナリオしかないでしょうがタイミングが難しい。3・11の前から、団塊の世代が年金の受給を開始する2012年から14年にかけて最初の危機が来て、それを乗り越えても、2020年までに最終的な破局が来てしまうと予測されていました。増税だけでなく時価会計原則から国債を除外し簿価で評価するなど、できることは何でもしなければなりません」
前出の吉國氏はこう指摘する。「国債の信用(クレジット)を支える最も重要な柱は信認(コンフィデンス)です。信認を与えるのは政治の仕事です。少し前の英国、現在の日本のように、与党も野党もダメというのが最悪です」山田晴信氏は、旧通商産業省、モルガンースタンレー、内閣総理大臣補佐官付調査員、香港上海銀行在日副代表を歴任し、さまざまな立場から金融の世界を見つめてきた経験から、こう指摘する。
「財政赤字の対GDP比率も政府債務残高の大きさも、日本はギリシャより悲劇的です。昨年、旧大蔵省出身の財政学者の野口悠紀雄氏や、元財務事務次官の武藤敏郎氏が警告を発しましたが、遅すぎた感は否めませんでした」財政再建シミュレーションについて、山田氏はこう指摘する。「いろいろなシミュレーションがありますが、どれも長期金利が超低水準で推移していくことが前提とされています。しかし中国やインドなどの人口大国が牽引して世界経済が成長すれば、資源高からインフレになります。それに円安が重なれば、日本の長期金利が上昇し、どんなに国債のクーポンを増やしても、新規発行国債を誰も買わなくなり、国債が暴落する恐れがあります。日本経済は輸入インフレに脆弱なので、これを杞憂だと片づけることはできません」
危機への対処のポイントは何か。「金融危機はある日突然に来ます。危機が到来した時に緊急措置としての臨時増税や資産封鎖をしなければ、事態はずるずると悪化してデフォルトに至ります。これはワーストーシナリオであり発生確率は低いでしょうが、その可能性に着目している投機筋は現実に存在します。リスクJンナリオを用意して、緊急措置が可能な政治環境を整えておくことが必要です」
国際的な投機筋による危機の拡大を抑制することは可能だろうか。英ポンド危機そしてアジア通貨危機からの教訓として、航空業に適用されている国際連帯税を国際資本移動に適用し、普段はグローバリゼーションの『被害者』への所得補填の財源とし、当該国の政府が自主的に税率を大幅に引き上げる仕組みを設けて、投機筋の動きを事前に封じるという工夫を、早急におこなうべきです」
山田氏は、こう総括する。「私は日本国債を基本的に楽観しています。日本は家計の資産が豊富ですし、消費税率の引き上げ余地が大きいからです。しかし、この楽観は、ガヴァナビリティー(統治能力)−自分で自分の進路を決め、国民に負担を強いる能力−が日本政府にあるか否かに帰着します。消費税引き上げと年金削減との政策パッケ九ンは不可避ですから、超党派で取り組むべきであり、そうした政治の動きが出てくることが大切です。『先延ばしシンドローム』は日本国債に対する内外からの見切りを招きます。日本の政治が一刻も早くガヴァナビリティーを高め、財政規律を確立することが望まれます」
「三、四年後に中国が人民幣の通貨取引を相当な程度に自由化したら、日本国債は暴落するのではないでしょうか。人民幣建ての中国国債をある程度自由に売買取引することが許されたら、日本の個人も金融機関も日本国債を売却し、高利回りで、おそらくその時までにトリプルAの格付けを得ている中国国債の購入に走り、その結果として大幅な高金利と円安とが起き、日本の財政が破綻する可能性を否定できません」
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